大正八、九年ごろという古い話になりますが、こういう話がありました。
当時の入沢医学博士から私が直接に聞いたことでありますが、博士がある時、図らずも大河内正敏理博と東海道西下の汽車に同乗したことがあります。
その際のこと、ちょうどいい機会と医博は思いついたのでしょう、「この車中に於て一、二時間の間に、陶器鑑賞に関して素人の僕にわかる様に話して貰えないか」と、日頃の希望を注文してみましたところ、大河内博士は、「それはちょっとむずかしい問題で、いくら簡単に話したところで到底一時間や二時間で話せるものではありません。詳しく説明すれば一年も二年もかかるでしょう」
